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東京地方裁判所 平成4年(行ウ)49号 判決

原告

小池スミ子

右訴訟代理人弁護士

西尾孝幸

被告

地方公務員災害補償基金東京都支部長青島幸男

右訴訟代理人弁護士

大山英雄

主文

一  被告が原告に対してなした昭和六三年一〇月六日付け障害補償支給決定処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、地方公務員災害補償法(以下「法」という。)に基づき障害補償請求を行った原告が、被告の認定した障害等級認定は低すぎるとして、被告の行った障害補償支給決定の取消しを求める行政処分取消訴訟である。

(争いのない事実)

一  原告は、東京都日野市立大坂上中学校に給食調理員として勤務していた昭和六〇年七月八日、公務外出中に、東京都日野市多摩平七丁目交差点を横断中、信号無視で交差点に進入してきた乗用車に衝突され、頚部挫傷、右上腕部・右大腿部挫傷、右前腕・両膝・腰部挫傷の傷害を負った(以下「本件交通事故」という。)。

二  原告は、被告から、本件交通事故による頚部挫傷、右上腕部・右大腿部挫傷、右前腕・両膝・腰部挫傷の各損傷につき、昭和六〇年八月二三日付け及び同年一二月一三日付け認定通知をもって、公務災害の認定を受けた。

三  原告は、昭和六一年一二月三一日、本件交通事故による傷害につき症状固定との診断を受けたが、後遺障害が残った。

四  そこで、原告は被告に対し、昭和六二年二月二六日をもって、原告の障害の程度は法別表七級四号(「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」)にあたるとして障害補償年金請求をした。

五  これに対し、被告は、原告が本件災害の後遺障害であると主張する症状には慢性関節リウマチによるものがあると判断し、昭和六三年一〇月六日付けで原告の障害等級は法別表一二級一二号(「局部に頑固な神経症状を残すもの」)に該当するとして障害補償支給決定(以下「本件処分」という。)を行った。

六  原告は、本件処分について、昭和六三年一二月四日付けで地方公務員災害補償基金東京都支部審査会に審査請求をしたが、平成二年一二月一四日棄却の裁決がなされ、さらに、平成三年一月二〇日付けで地方公務員災害補償基金審査会に再審査請求をしたが、同年一一月二七日棄却する旨裁決がなされた。原告は、平成四年一月一〇日、右裁決書を受領した。

(争点)

原告の後遺障害は、被告の主張する別表一二級一二号(「局部に頑固な神経症状を残すもの」)より上位の等級に該当するか。

(当事者の主張)

一  被告

1 原告の現在の症状には、本件事故とは関係なく原告が罹患した慢性関節リウマチによるものがある。

すなわち、原告は慢性関節リウマチに罹患しており、原告の主張する症状の多くは慢性関節リウマチの自覚症状と類似しており、本件傷害の程度、他覚的所見からみて、慢性関節リウマチに起因していると思われる。また、原告の他覚的所見は、加齢によっても起こりうることであるが、原告は、昭和一六年一〇月一六日生まれで、本件交通事故当時四三歳であることからみて、加齢に起因することも否定できない。

そこで、被告は、原告の受傷した部位にある後遺障害を本件交通事故傷害に基づく後遺障害とし、その障害の等級が法別表一二級に該当すると判定した。

2 なお、仮に、原告の主張するリウマチ性疾患が、原告の主張するように、本件交通事故に起因するものであるとしても、原告が本訴において、リウマチ症状を後遺障害として主張することは失当である。

すなわち、リウマチ性疾患は、被告が公務上の災害と認定した原告の傷病名とは異なり、認定した傷病のいずれにも該当しないことは明らかであるからである。

被告が認定した傷病が治癒したことは、原被告間に争いのない事実であるから、原告は、原告の主張するリウマチ性疾患が、被告の認定した傷病又は右傷病と相当な因果関係をもって発症した疾病であることを明らかにして、新たに公務災害認定請求を行うべきである。

二  原告

1 被告の認定は因果関係について誤認した事実を前提としている。原告の後遺障害は、当初より、本件交通事故による「頚髄損傷」を起因とするものである。

2 なお、原告がリウマチ症状を呈していることは認めるが、これも本件交通事故によるものであって、右症状と本件事故との間には因果関係があるから、原告の障害の程度の判定にあたっては右症状も斟酌すべきである。

リウマチの原因については諸要因があるとされ、確定されていないが、外傷も原因の一つとして掲げられており、原告の場合、既往症もなく、本件交通事故以前にリウマチの兆候は一切なかったし、また、血縁者にもリウマチを患った者はいないから、少なくとも本件交通事故が発症の引き金になったことは疑いない。

第三争点に対する判断

一  被告が原告の症状を別表一二級一二号に該当すると判断した根拠は、医師井上良行(以下「井上医師」という。)作成の「支部事務長の依頼に対する検診医の意見書」(〈証拠略〉)によるものと解される(〈証拠・人証略〉)。

右意見書の概要は左記のとおりである。

(一)  診察期間 昭和六二年六月二三日から同年一一月九日まで

(二)  傷病名 頚部挫傷、右上腕部、大腿部挫傷、右前腕、両膝、腰部挫傷

(三)  主訴及び自覚症状

イ 頚部の運動痛

ロ 頂部の鈍痛及び肩凝り

ハ 右上肢の痺れ感

ニ 両手指の運動痛

ホ 頭痛

(四)  検査成績(他覚症状)

イ 頚椎棘突起圧痛がある。頚椎前弯正常。頚部の運動は比較的良好であるが、前後屈運動に疼痛を伴う。

前屈 四〇度

四〇度

回旋 右五〇度 左五〇度

側屈 右三〇度 左二五度

ロ 両側腕神経叢部に圧痛がある。

上肢腱反射正常、右上肢特に橈骨神経領域に知覚鈍麻を認める。

ハ レントゲン線所見

椎体、椎間板及び椎間孔部に特に異常を認めない。

ニ 両手指の軽度の浮腫状を呈し、右手第二、五、MP関節、第五指PIP関節、左第二、三、五指PIP関節の腫脹と圧痛、両示指屈筋腱の走行に一致した腫脹と圧痛及びこれに関連した手指の屈曲障害を認める。

血液検査により、RAテスト(+)、血沈の亢進(一時間五三ミリ、二時間九四ミリ)を認める。

手指レントゲン線像正常。

ホ 腰部においては、前弯正常、第四、五腰椎棘突起に圧痛がある。腰部の運動は疼痛のためか積極的に運動せず制限を認める。

前屈 三五度

後屈 五度

回旋 右三〇度 左三〇度

側屈 右一五度 左一五度

下肢腱反射正常。右下腿より足背に知覚鈍麻を認める。

ヘ 昭和六三年五月二五日現在、他院において慢性関節リウマチの治療を受けている。

(五)  総合意見

現在、原告の訴える種々なる愁訴は、慢性関節リウマチに起因すると思われるものが大きいが、頚部及び腰部は同部位に直接外傷があったという事実を考慮し、局所の神経症状を残すものとして処理するのが妥当と考え、法別表一二級を適当と考える。

二  ところで、本件証拠上、原告の症状に関する医学的見解としては以下のものが認められる。

1  医師村尾眞俊(日野市立総合病院整形外科)作成のもの(〈証拠略〉)

(一) 受傷日時

昭和六〇年七月八日

(二) 傷病名

頭部挫傷、腰部挫傷、右上腕、右前腕、右大腿挫傷

(三) 治療期間

ア 入院期間

昭和六〇年九月二日から同年一一月二〇日までの八〇日間

イ 通院期間

同年七月八日から昭和六一年一二月三一日

(四) 症状が固定した日 昭和六一年一二月三一日

(五) 既存障害 なし

(六) 自覚症状

頭頂部、両上肢の脱力、両上腕より前腕にかけての鈍痛、両橈骨神経領域の痺れ、頚部及び腰部の運動制限、両手の震え、耳鳴り、嗄声、両示指の最大屈曲障害、両下腿外側及び両足底の痺れあり。

(七) 精神・神経の障害、他覚症状及び検査結果

両橈骨神経領域の痺れ感あり、同部の痛感鈍麻軽度(+)右>左、頚椎、腰椎の運動制限(特に腰椎)

握力 右一四kg、左一五kg

X―pにて、受傷時のものには特に著明な所見はない。頚、腰部には軽度の側弯あり。

昭和六一年九月のX―pにて、頚椎2、3、4にOPLL(後縦靱帯骨化症)の初期を思わせる所見もあるも、断層写真では明らかではない。但し頚間に一致して骨堤の隆起を軽度認める。

(八) 眼球・眼瞼の障害

視力 (右)裸眼〇・二 矯正〇・八

(左)裸眼〇・四 矯正一・二

(九) 言語の障害 高音が出ない。大声が出せない。

(一〇) 脊椎の障害(運動障害)

頚椎部、前屈一三〇度、後屈一三〇度、右屈一四〇度、左屈一四五度、右回旋七〇度、左回旋六五度

(一一) 荷重機能障害(常時コルセット装用の必要性)

腰椎常用。頚椎一時的に。

(一二) 関節機能障害

別表のとおり

(一三) 診断日 昭和六二年一月三〇日

2  東京医科大学八王子医療センター医師小嵐正治(以下「小嵐医師」という。)作成のもの

(一) 平成三年三月四日付け診断書(〈証拠略〉)

病名 外傷性頭頚部症候群

昭和六〇年七月八日交通事故にて受傷。以来、頭痛、耳鳴り、四肢機能低下の状態が続いている。昭和六一年一二月三一日付けにて症状固定されているが、その後病態の変化が認められ、今回診察にて障害等級の再検討が必要と診断される。

(二) 平成三年一〇月三日付け診断書(〈証拠略〉)

病名 頚髄損傷、慢性関節リウマチ

頭頚部神経刺激症状が常在し、リウマチによる関節症が加わって、四肢機能障害が認められる。就労は不可能と判断する。

(三) 平成六年三月一〇日付け報告書(〈証拠略〉)

平成三年三月四日付け診断書のとおり、「外傷性頭頚部症候群」と診断した。同病名はいわゆる「むちうち損傷」の一種ともいえるが、そのうち特に脊髄に損傷を受けた重篤なものは脚部のしびれなどの症状が出る。原告の場合も本件交通事故によって、このような症状が発生したと認められ、慎重に診断していたとすれば、「頚髄損傷」と診断できたはずである。

3  東京都立大久保病院院長岡井清士(以下「岡井医師」という。)作成平成七年一〇月二七日付け鑑定意見書(〈証拠略〉)

(一) 資料は、本件訴訟における証拠のうち、(証拠略)である。(前記証拠のうち〈証拠略〉は資料とされていない。)

(二) 慢性関節リウマチは、主として関節に炎症を起こしてくる慢性炎症性疾患であり、その病因は不明である。

「外傷性関節リウマチ」という疾病概念は現在の学説では存在しない。

頚髄損傷とは、脊髄の一部である頚髄に損傷が起こった状態で、頚髄の支配領域である四肢・体幹に完全又は不完全麻痺が生じ、最も障害の程度の高度な完全麻痺の場合には四肢・体幹の感覚が全て消失し、四肢・体幹を自分の意思で動かすことができなくなる。外傷性頚部症候群、頚部捻挫、頚椎捻挫、頚部挫傷、むちうち損傷等は同義語として用いれ(ママ)ることが多い。これらの症状は頭頚肩腕部の痛み、めまい、吐き気、眼痛、耳鳴り、四肢のしびれ等であって、これらの中の一部又は全部が生じてくる。こういった症状に加えて、運動障害や知覚障害を明確に表しているものに対しては脊髄又は神経の損傷部位によって「頚髄損傷」とか「神経根症」という名称が用いられる。外傷性頚部症候群では、頭頚肩腕部の痛み、めまい、耳鳴り、吐き気、眼痛の一部又は全部が存在するが、脊髄・神経症状は存在しないか、又は存在したとしても、高々上肢のしびれ程度の場合に限って用いられるのが通常である。

(三) 原告の愁訴の原因について

(1) 症状固定に関する書類(〈証拠略〉)に記された症状について検討する。

ア 頂部痛

リウマチは否定できないが、頚部挫傷による可能性が高い。

イ 両上肢の脱力・両上腕から前腕にかけての鈍痛

リウマチの影響もあるかもしれないが、頚部挫傷から十分発症し得る。

ウ 両橈骨神経領域の痺れ

頚部挫傷による。

エ 頚部及び腰部の運動制限

頚部挫傷、腰部挫傷による。

オ 両手の震え

頚部挫傷による。

カ 耳鳴り

頚部挫傷による。

キ 声

頚部挫傷による。

ク 両手指の最大屈曲障害

頚部挫傷の影響は否定できないが、リウマチによる可能性が高い。

ケ 両下腿外側及び両足底の痺れ腰部挫傷による。

(2) 昭和六三年九月二二日付けの井上医師による意見書(〈証拠略〉)に記された症状について検討する。

ア 頚部の運動痛

リウマチの影響を否定はできないが、頚部挫傷による可能性が高い。

イ 頂部の鈍痛及び肩凝り

リウマチの影響を否定はできないが、頚部挫傷による可能性が高い。

ウ 右上肢の痺れ

頚部挫傷による。

エ 両手指の運動痛

頚部挫傷の影響も否定できないが、リウマチによる可能性が高い。

オ 頭痛

頚部挫傷からも十分起こり得る症状であるが、リウマチや高血圧の影響も否定できない。

(四) 原告の訴えている愁訴と本件交通事故との関係について

両手指の最大屈曲障害、両手指の運動痛以外の症状は本件交通事故と関係がある。

(五) その他参考となる事項について

カルテや診断書、意見書等を経時的に検討すると、昭和六一年一二月三一日の症状固定までに頚髄損傷を示唆する脊髄症状の所見は認められない。すなわち多覚的な下肢の腿(ママ)反射昂進や下肢の知覚障害は認められていない。しかるに、平成三年三月四日付け小嵐医師の診断書(〈証拠略〉)によると、頚髄損傷との病名が記されている。このことは症状固定後何らかの時点から頚髄症状が出現してきたことを推定せしめる。小嵐医師のカルテから脊髄症状が確認されれば、頚髄損傷は症状固定後に発生してきた後遺症の可能性がある。

三  原告の症状等

1  前記診断書等のほか、(証拠・人証略)を総合すれば、本件処分時の原告の症状等は以下のとおりであることが認められる。

(一) 原告は、本件交通事故以来、毎週一回通院治療を受けてきたが、激しい頭痛、眼、首の痛み、手足の震え(箸、鉛筆も満足に持てない。)、話すにも舌がうまく回らない、便秘が続き食欲もなくなり、体力も消耗し、体重もかなり減少した。七月終わりころから、毎日通院し、リハビリに入ったが、このころから腰部が痛み出した。八月中旬に入ると、腰部の痛みは強くなり、足も痺れ、全身が痛んだ。九月二日入院したが、痛みはとれなかった。

原告は、昭和六〇年一二月四日当時、全身の痛み(手を使うと激しい頭痛、首の痛み、手のふるえやしびれ、少し動くと腰や足がきりきりと痛む。)も取れず、体の中の機能が全部おかしくなった。入院して少し症状も和らいだが、また入院前と同じように全身が痛む。微熱も続き、炬燵に入る姿勢をとることも、ソファーに腰掛けることも、連続して立っていることもできず、寒い日には寒さも酷い。本件交通事故前は両手とも握力は四〇キログラム以上あったが、症状固定時には右一四キログラム、左一五キログラムであった。

(二) 昭和六一年一一月二八日付け療養内容について(回答)(〈証拠略〉)では、原告の症状はほとんど固定しつつあり、早急な改善は期待できない、また、就業治療の可否については、事務的作業は現在でも可能であり、労的作業についても多少の問題はあるが昭和六二年一二月三一日から可能であり、両上肢、特に右上肢の痺れ、筋力の低下、両手のふるえ、頚部痛、右肩凝り等の症状は後遺するものとされた。

(三) 原告は、昭和六一年一二月三一日の症状固定後、給食調理員として復職したが、復職後三日で苦痛を感じ、一か月程度の年休をとった。復職後の給食員の仕事は、足部のしびれ感や首筋、頭部、背中、腰の痛み等から辛さを感じた。包丁を使用すると首筋や頭部、背中、腰が痛み、立っていると足部にしびれ感があった。

(四) 平成二年九月一三日、レントゲン検査の結果、頚部椎間板症が悪化していることが判明した。当時、原告の握力は左右とも八キログラム程度であった。原告は、右レントゲン検査の結果に基づき、医師から、仕事を止めるようにいわれ、以後、給食調理員の仕事はしていない(病休扱い。なお、原告は平成三年四月一日付けで、学校教育部学務課付となる。)。

(五) 原告の握力は平成六年一二月には一ないし一・五キログラム程度となった。

2  その後、原告は、東京都から、平成三年四月二二日付けで、障害名「頚髄損傷による、慢性関節リウマチによる、体幹機能障害(歩行困難)」として、身体障害程度等級三級と認定され、(〈証拠・人証略〉)また、平成五年一二月六日付けで、「頚髄損傷による、慢性関節リウマチによる、四肢機能障害」として同二級と認定された。(〈証拠・人証略〉)

3  なお、原告は、リウマチの既往症はなく、本件交通事故以前にリウマチの兆候も全くなく、また、血縁者にリウマチに罹患した者もいない。(〈証拠・人証略〉)

四  判断

以上認定したところによると、原告は、本件症状固定前後において発現している様々な症状によって通常の生活を営むことのできないほどの苦痛で苦しんでおり、これらの苦痛は本件症状固定後において一層悪化しているようにみえる。

そこで、本件症状固定前後に原告に発現していた様々な症状の主たる起因について検討してみるに、前記各医師の診断検査意見等を総合考慮すると、頚部挫傷を主たる起因とし、これに腰部挫傷等の起因が加わっているのではないかと考えられる。この点につき、小嵐医師は、平成三年一〇月三日付診断書及び報告書で頚髄損傷との診断をしているものと考えられるが、岡井医師作成の鑑定意見書によると、症状固定時までに頚髄損傷を示唆する脊髄症状の所見は認められないというのであるから、本件症状固定時において頚髄損傷が存したと認めることは困難ではないかと考える。

ところで、被告は原告に発現している様々な症状は、慢性関節リウマチに起因するものが大きいが、頚部及び腰部は同部位に直接外傷があったという事実を考慮し、局所の神経症状を残すものとして処理するのが妥当であり、法別表一二級を適当と考える旨の井上医師の意見に従って本件処分をなしたというのである。

しかし、小嵐医師は、常在する頭頚部神経刺激症状にリウマチによる関節症が加わって四肢機能障害が認められる旨の診断をなしており、岡井医師は、リウマチによる可能性が高い症状としては両手指の最大屈曲障害、両手指の運動痛であり、リウマチの影響は否定できないが、頚部挫傷による可能性が高い症状としては頂部痛、両上肢の脱力、両上腕から前腕にかけての鈍痛、頚部の運動痛、頂部の鈍痛及び肩凝り、頭痛であり、その余の症状は頚部挫傷によるとの鑑定意見を述べており、これらの診断意見等を総合考慮すると、両手指の最大屈曲障害、両手指の運動痛は慢性関節リウマチによる影響の高いことは否定できないとしても、その余の症状は頚部挫傷によるものと考えるのが相当である。

以上検討したところを総合考慮すると、原告の後遺障害の程度は、少なくとも法別表一二級一二号を超えたものであって、原告の主張する同表七級四号か、あるいはこれに近いものであると認めるのが相当である。

なお、慢性関節リウマチと本件交通事故との関係について付言するに、原告は、本件交通事故以前にはリウマチの既往症はなく、その兆候もなかったし、血縁者にリウマチに罹患した者もいないというのであり、岡井医師によれば、慢性関節リウマチは、主として関節に炎症を起こす慢性炎症性疾患であるが、その原因は不明であるというのであり、以上の諸点を総合考慮すると、原告に発現している慢性関節リウマチは本件交通事故を契機にして発現したのではないかと考えられ、少なくとも本件交通事故との関係は否定することができないように考えられる。

第四結論

以上のとおりであるから、原告の本件請求は理由がある。

(裁判長裁判官 林豊 裁判官 合田智子 裁判官 三浦隆志)

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